映画「母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。」公式サイト » 公開記念トークセッション実施レポート

公開記念トークセッション実施レポート

2019/02/14 13:26 up!

2月13日に、本作の公開を記念し、監督の大森立嗣さん、原作者の宮川サトシさん、さらに特別ゲストとして国立がんセンター名誉総長で日本対がん協会会長・垣添忠生さんを迎えトークセッションを行いました。
がん遺族であり、母の発病から旅立ちの日までをエッセイ漫画にしたためた宮川さんと、その日々を映画化した大森監督と共に、“がん”という病気について、また“生と死”を視点にした映画について熱く討論が交わされました。

 

試写後のトークショーとなった本イベント。温かな感動に包まれた会場に3人のゲストが登場し、第一声に大森監督が「映画をご覧いただきありがとうございます。今日は垣添先生と一緒なのでちょっと緊張していますが、心してトークしたいと思います。楽しんでください」と挨拶をすると会場には温かな笑いが沸き起こった。

国立がんセンター名誉総長の称号を受け、長年に渡りがんの診断・治療に携わるだけでなく、自身もがんの経験を持つ垣添さんは自身を「私自身も大腸がんと腎臓がんのサバイバーです」と紹介。まず映画の感想を聞かれると、「抑制された色調と音楽と風景の中で、最愛の人を亡くす家族の姿、残された遺族の想いが非常に生々しくも美しく描かれており、とても感動いたしました」と映画を絶賛!

 

映画について話が及ぶと、大森監督は「原作を映画化する際、僕は物語を母を亡くす前と、母を亡くした後に遺された家族がどう生きていくのかという2部に分けて考えました。サトシのお母さんにも、恋人の真里さんにもサトシへの気持ちをちゃんと伝えられるようにしたいと思いました。サトシが1人で受け止めようとしていることに対して、実は1人じゃないよ、みんながいるよ、という視点で描きたかったんです」と語った。
その話を受け、実は12年前に妻をがんで亡くしたことを明かした垣添さんは、「石橋蓮司さん演じる父の利明役にとても感情移入しました」と語り「妻を亡くした後、私は家では泣いてばかりでお酒ばかりを飲んでの3か月を過ごしました。ですから石橋さんの演技には大変胸を打たれました。本当につらかった自分の日々を重ね合わせました。映画のお父さんのようにコンビニ弁当ばかりでした」と当時のことを語ると「先生のような立派な方もそうなってしまうとは…」と原作者の宮川さんも驚きを隠せない様子。

 

さらに垣添さんは「妻に先立たれた夫は、実際に寿命が2年短くなるという統計もあるくらいなんです。残されたものにとってはとてつもなく辛い経験。一人で立ち直れる方もいらっしゃいますが、中には遺族の心を助ける“グリーフケア”を必要とする方もいる。だから僕はそんな方が一人でも救えればと思いずっと願って活動しているんです」と述べ、会場からは感嘆の声が漏れた。
またがん宣告の方法についても話題に上がり、「昔は告げなかったが、今ははっきりと告げる時代になっていますね。体験者はみなさん頭が真っ白になると口をそろえておっしゃいます」という垣添さんの言葉に、「息子でも真っ白になってしまいました。“がん”という響きもなんだか重くて…。“がん=終わった”というイメージがあったんです」と宮川さんが正直に打ち明ける。それに対し垣添さんは「以前はがんも治療率40%だったが、今は65%まで上がってきている。確実に治療率があがっているのに、いまだに死のイメージが払拭できないので、私は全国行脚でがんサバイバーを支援して、その事実を人々に伝えていきたいです。これから10年もたったら、がんは誰でもなる、ごく普通の病気となります。そういう時代が必ず来ます。がん患者差別がなくなる社会がくるようにこれからも活動していきたい」と熱い思いを語った。

実際に抱えた悲しみを漫画にすることで、母の死を乗り越えた宮川さん。「母を亡くして7年目になりますが、喪失感はなくなりました。漫画に『死って何だろう、なんで悲しいんだろう』と俯瞰で物事を考え始めることで、楽に思えるようになりました。もはや、死を食べたような感覚で、母が亡くなったおかげで今の自分がいるのではないかと思うようになりました。死というエネルギーが力を与えてくれたような気がします」と当時を振り返ると、垣添さんも「私も妻を亡くして丸一年たって、『このままじゃだめだ』と自分を奮い立たせ、妻の病歴や自分の苦悩を書き始めました。僕も書くという行為が辛さを減らしてくれたと思います。そして書き記したものは知人のアドバイスで書籍化し、『妻を看取る日―国立がんセンター名誉総長の喪失と再生の記録』という本ができあがりました」と宮川さんの気持ちを理解を示した。

これまでの映画を通し“生と死”について向き合ってきたと語る大森監督は、「僕は映画をつくるときにはいつも“生と死”を意識していますが、いくら考えても分からないものですよね。だから分からないものにどう向かっていくかということをいつも映画で探しています。はっきりとした答えは見つからなくても、『分からないや』とあきらめるのは嫌なので、足搔き続ける人々の姿をこれからも映画に収めていこうと思っています」と独自の映画への想いを語った。
また最後に本作について「作っているときには、とても明るい現場だったのですがテーマは重みのあるものでした。しかしその重みからある程度の距離をもって悲しみすぎず、捉えることも大事だなとこの映画をもって学びました。僕なんか照れてしまうんですけど、少し恥ずかしい愛情表現も、宮川先生はまっすぐに伝えていて、笑いと涙が混じる素敵な映画になったと思っています」とコメント。

 

最後に、垣添さんが「命のバトンがつながるという、すこく明るい映画になったと思います。いつか人は死ぬけれど、先の先まで繋がっているというメッセージが込められている素晴らしい映画です」と監督に負けない完璧なコメントを残しイベントの挨拶を締めくくった。